虚々実々日記

これは僕(古藤)が日々感じていること、考えていること、体験したことを日記風にまとめたものです。
一部フィクションもありますが、概ね晴れるでしょう。

最近、年をとって物忘れがひどくなったりするのを「老人力」などと言うらしい。
そういう意味で、僕は「子供力」が備わっていた。そして、それは現在も衰えることがない。

小学校の時、僕は宿題というものをやって行った事がなかった。給食のエプロンも習字の道具もお絵かきの道具もリコーダーも何もかもいつも忘れてい た。教室の後ろには忘れ物のグラフが模造紙に書いて貼られていたが、僕の名前のところだけ紙がつけたしてあった。書ききれないからである。道具の必要な授 業は僕にとって教室の前で正座する時間であった。
本人に悪気があった訳では決してない。忘れていた訳でなく、知らなかった(聞いていなかった)のである。
そんなある日のこと、決定的なことが起こった。
通っていた小学校の前はだらだらとした長い坂で、子供にとっては結構きつかった。しかし、その日は体も軽くさわやかな気持ちで坂道を登っていた。久し振りに爽快な感じだった。その時、後ろから歩いてきた級友が言った。
「あれー、古藤君、ランドセルは?」
あっ、体が軽いのはそのせいだったのか。し、しまった。僕は思わず天を仰いだ。そして呟いた。「む、向いてない、こんな生活…」 子供心に本気で思った。
その後の事はあまり覚えてないが、おそらく親がランドセルを届け、ひどく怒られたのだろう。

それから10数年後、就職活動の時に同じ思いをした。現在と同じようにひどく就職難の時代だった。僕は映画会社の「にっかつ」を受けようとしてい た。
しかし、全国の映画青年が集まるので空前の狭き門であった。ほとんど書類審査で落とされてしまう。僕はその頃やっていた芝居の台本と手紙を送り、なん とか受験させてくれるように頼んだ。
すると、担当者がいい人で「がんばりなさい」という内容の手紙と一次試験の合格通知、二次試験の受験票が届いた。
二次試験の当日、僕は早起きして電車に乗り込んだ。座席に座り、もう一度受験票を確認する。
「あれ、なんか変だな…」僕は前に立つ人の新聞をのぞきこんだ。
「うーん、この受験票に書かれている日付はどう考えても昨日だ…」
全身の力が抜けてしまった。 窓から外をながめながら僕は呟いた。
「む、向いてないなぁ、こんな生活…」

思えばあれからズーッと、向いている生活には未だに出会っていない気がする。

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